一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

一夜の過ち


それは、最悪な目覚めだった。

いつもなら、鳥の囀りとカーテンの隙間から差し込む柔らかな日差しを浴びながらスマートフォンできっかり午前六時にセットしているアラーム音で目覚める朝。


それが今日は、何故かそのどれもが無くて。


自宅のものとは違う、サラサラと肌触りの良いシーツとふわふわの掛け布団。


頭の下には柔らかな枕があり、薄暗い空間。



「……え?」



体を起こしてベッドに座った状態のまま、今の状況を理解するまでにどれくらい経っただろうか。


ふと。近い距離で何かが聞こえることに気が付き、恐る恐る顔を左に向けた。



「……っ!?」



叫びそうになった口元を慌てて両手で塞いだ。


それもそのはず、音の正体は気持ち良さそうな寝息だったからだ。


しかもその寝息を立てている人物は、男性なのだから。


艶のある黒い髪の毛は寝癖なのかあちこちに跳ねていて、掛け布団の上からでもその身体は鍛え抜かれていることがわかるがっしりとした体型。


そして、その身体は……一糸纏わぬ姿。


もしかしたら布団の下で下着くらいは履いているかもしれないけれど、ここからは何も着ていないように見えた。


そんなことを考えながら、私は自分の姿に目をやった。


自分も同じ姿。まして下着すら身に付けていないことに気が付いて、思わず布団を手繰り寄せた。


どうやら同じ布団に包まっていたようで、その私よりも大分大柄な身体は寝返りを打つように少し動く。


それにビクッと肩を跳ねさせながらも息を殺し、再び寝息が聞こえ始めたのを感じて一つ、深いため息を吐いた。


まず、まずは。今の状況を整理しよう。


パニックになりかけていた自分を落ち着かせようと、何度も深呼吸を繰り返した。


バクバクと鳴る心臓と震える口元は変わらないが、さっきよりは大分マシだ。


そして視線だけを動かして、ベッドの下に自分の下着が落ちているのを発見。


急いで布団から出て下着を拾い集め、ベッドの影に隠れるように壁との隙間に入り込んで下着を身につけた。


下着を付けたらなんとなくさっきよりは落ち着いたような気がして、ゆっくりと一息吐く。そして鞄の中から音を立てないようにスマホを取り出した。


時刻は早朝四時。いつもより大分早い。


スマホを鞄に戻し、改めて寝息を立てている男性の顔を覗き込む。


目を閉じていてもわかる、端正な顔立ち。


それは、私の知っている人で。


薄く開いた唇から漏れる呼気に、うっすらと昨夜の情事を思い出した。
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