一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
「……僕との、子どもですか?」
「……はい。タイミング的にも、……その、そういうことをしたのも蒼井さんだけなので」
直接的に言うのは憚られて言葉を濁したものの、副社長が理解するには容易かったよう。
思いの外ピュアなのか、私の言葉に顔を赤く染めた。
「そっ……そうだったんですね……」
「はい」
「えっと、まず何から言えば良いのか……」
「……」
副社長も混乱しているのか、あわあわとしていた。
個室を選んでくれて良かったと思う。
そうじゃなかったら、こんな話もできないから。
副社長の様子から見て、もしかしたら堕してくれと言われるかもしれないと、覚悟を固める。
しかしそんな覚悟は杞憂に終わるかのように、副社長は席を立って私の元へ来て、私の両手をそっと握った。
「あ、鮎原さんっ」
「は、い」
「まず先に、謝らせてください。お酒の勢いとは言え、関係を持ってしまっただけでなくそんなことになっていたとは全く考えもしておりませんでした。
でも結果的に鮎原さん一人に負担をかけてしまって……。本当に申し訳ありません」
「……」
「そんな立場の僕が、こんなことを言うのも烏滸がましいのですが」
そこで一度言葉を区切った副社長は、大きく深呼吸をした。
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
私の手をしっかりと握ったその両手は、すぐに私の手をふわりと包み込んだ。
そして、その柔らかな笑顔と視線が絡み合う。
「……今、なんて」
「赤ちゃん、産んでほしいです」
「……それは、産むだけ、ということでしょうか」
言葉を素直に受け止めることができなくて、そんなことを聞いてしまう。
しかし副社長は一瞬驚いたような顔をして、それからすぐにまた笑った。
「ははっ、まさか。
……産んで、僕と一緒に育ててもらえませんか」
甘い視線が、私の心に突き刺さるかのように絡んでくる。
「あの日、初めてバーで見かけた時から、僕は貴女に恋をしました」
「……え?」
「あの日、憂いを帯びた貴女の視線に恋をしたんです。話せば話すほど、貴女のことを知りたくなって。不思議な魅力を感じました。
どうにか知り合いたくて、どうにか繋ぎ止めたくて。必死でした。不自然にハンカチを押し付けるくらいには」
「……あ。そう言えば、ハンカチ……」
洗ってアイロンをかけて袋に入れたまま、鞄の中に入りっぱなしなのを思い出す。
「いいんです。最初から差し上げるつもりでお貸ししました。
貴女とまた会える名目があれば、それだけで良かったんです」
思ってもみなかった告白に、私は瞬きを繰り返すことしかできない。