一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
「……蒼井さん」
「はい」
「総務部長に、妊娠したことを報告してきました」
告げると、目を大きく見開いた後に柔らかく笑った副社長。
「それと……相手が副社長で、結婚するつもりだと。そのこともお話ししてきました」
「……えっ!?」
驚いた顔に、今度は私が笑う。
部長も同じ顔をして絶句していた。今頃社の上層部はパニックになっているかもしれない。
明日から大変だろう。
くすりと笑う私とは反対に、副社長の目は段々と潤む。
「……プロポーズしてくれたのは、まだ有効でしょうか」
その目に滲んだ涙が愛しいと思った。
私は微笑みながらそっとハンカチを当てる。
「……あ、これ」
それは、出会った時に借りたまま、返し忘れていたハンカチ。
「洗って返してくださいね」
半分冗談でそう言うと、
「……もちろんです」
副社長は幸せを噛み締めるように笑う。
「まだお互い知らない面もありますが、蒼井さんがどれだけ私とこの子を愛してくれているかはよくわかります。貴方ほど私とこの子を大切にしてくれる人は、他にいないとわかります」
性別もわかっていないのに、ベビーグッズを揃え始めていて子どもの名前まで考え始めている始末だ。本当に嬉しそうで、本当に幸せそうで。
見ているこちらが自然と笑顔になってしまう。
「知らない部分はこれから知っていけば良い。お互いの足りないところがあれば、お互いが補い合えば良い。
……貴方のような温かく素敵な人と、この子を一緒に大切に育てていきたい。そう思いました」
「……美玲さん」
「だから、今度は私から言わせてください。
……私と、結婚してくださいませんか?」
「っ、喜んで!」
その時の笑顔を、甘いキスを、私は一生忘れない。