一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
「……彼方さん、かっこいい」
「それを言うなら、美玲さんの方だよ。本当に綺麗だ」
「ふふっ……嬉しい」
彼方さんは結婚してからも、玲花が産まれてからも、"可愛い""素敵だ""愛してる"など、甘い言葉を欠かしたことがない。
私の誕生日は特に教えていなかったのに、誰に聞いたのか真っ赤な薔薇の花束をプレゼントしてくれてそれはそれは驚いた。
"貴女に出会えたことが、僕の一生の宝です"
そんな歯の浮くようなセリフも、彼方さんが言うととても似合っているから少し悔しい。
「本当に綺麗だよ。───今すぐ食べちゃいたいくらいに」
そう言ったかと思うと、一瞬で私の唇を奪っていく彼方さん。
「なっ!」
折角綺麗にグロスを塗ってくれたのに、取れちゃったじゃん……!
「ははっ、真っ赤になっちゃって。本当に可愛い」
ぺろりと唇を舐めるその仕草がいやらしくて、見ているとこっちまで変な気分になりそうで、思わず顔を逸らす。
「……彼方さん、からかわないで」
「からかってないよ。事実だよ」
「……」
しかし彼方さんは逃してくれなくて。
「ん……ちょ、っと、かなたさん……んんっ」
もう式が始まるのに。彼方さんは私に何度もキスをして、全く離してくれる気配がない。
コンコン、と控室のドアをノックする音がしても尚、まだ降り続く甘いキス。
「……もう、良いとこだったのに」
「っ、もうっ、早く行かないとっ!」
「ははっ、"もっと"って顔してるのに?」
「し、してないっ!」
図星を突かれて、恥ずかしさに逃げるようにドレスの裾を持つ。
「ごめんごめん。あまりにも美玲さんが可愛くて」
「……だからからかわないでって……」
「クスっ……うん。じゃあ行こっか」
小さく笑ったのを、私は見逃していないぞ。
そうは言っても、もう時間だから。
すっかり落ちてしまったグロス。
それに対する文句は後で、じっくりと。
二人並んで控室を出て、チャペルへ向かう。
「そうだ。今夜、うちの実家に玲花預かってもらうから」
「え?どうして……」
「結婚式の後くらい、二人きりで過ごしたいからね」
「……彼方さん」
「だから、今夜はたっぷり愛してあげるから、覚悟しといてね?」
───あぁ、文句を言っている暇も無いかもしれない。
その妖艶な笑みに応えるように、そっと私からキスをする。