一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

「鮎原さん。もう日付も変わったので、そろそろお送りします」

「……もうそんな時間ですか?」

「はい」


グラスに残っていたウイスキーを飲み干す。

ダメだ、さすがに飲みすぎた。頭が働かない。

自分で思っていたよりも酔っていたようで、足下が覚束ない。

副社長に体を支えられながら立ち上がる。

会計を済ませてお店を出ると、降り続く雪と吹く風は刺すように冷たいのに、火照った体にとってはまるで包み込んでくれるかのように感じた。全身を冷やしてくれるのが心地良いとさえ思う。


「……鮎原さん?大丈夫ですか?」

「はい。だいじょうぶ……」


です。と言おうとしたものの身体がふらついて倒れそうになる。

それを副社長が咄嗟に支えてくれた。


「……すみません」


もう自分で立てるのに、副社長は私から手を離そうとしない。

それどころか、私をギュッと抱きしめた。


「……もう時間も遅いですし、どこかで休んでいきませんか?」

「……それは、もしかして」


働いていない頭でもわかる。

それは。


「……はい。誘っています。口説いています」

「どう、して」

「……今、貴女を帰したくないと思ったので。……それだけでは、ダメでしょうか?」


耳元で囁く甘い声が、私を誘惑する。

ダメなのに。絶対にダメなのに。

寂しい。しんどい。つらい。一人は嫌だ。誰かと一緒にいたい。

頭の中は、正直だ。

気が付けば、ゆっくりと頷いている私がいた。

それに安心したように私の腕を引いた副社長。

タクシーに乗り、無言のまま着いた場所は高級ホテルで。


「すみません、ダブルの部屋しか空いていなかったようで」


返事をするより前に、部屋に案内された。

高級ホテルだからだろうか。ダブルルームでもとても広くて綺麗なお部屋。

中央にあるダブルベッドに腰掛けると、副社長がもう一度私を抱きしめる。


「ふ、……蒼井さん?」


危うく"副社長"と呼びかけそうになって、一瞬言葉に詰まった。

それに気が付いているのかいないのか、はたまた気にしていないのか。

副社長は肩口に寄せていた顔を起こしたかと思うと、そのままそっと唇を重ねた。

最初は触れるだけで。何度も角度を変えて。

そして、一瞬離れたかと思うとお互いがお互いを見つめ合う。
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