ふたりで解く
きらきら揺れる
最初は、サラサラの黒髪がいいなと思った。
春の新しい息吹が混じった光の下で、こぼれるような笑みを浮かべた彼の頬をそっと撫でたから。
その時、黒髪に誘われるようにフープピアスが煌めいたのは、わたしに初めての恋の訪れを知らせるお告げだったのかもしれない。
隣をちらりと見ると、それは今も彼の耳元で煌めきながら揺れていた。
「可愛い、もう一回言って」
可愛い、か。
そんな言葉、わたしには絶対に言ってくれない。
悠李の整った―――整い過ぎて温度の感じられない横顔を覗き見ながら、慣れないお酒に口を付けた。
グラスを片手に女の子に視線を向ける悠李は、人形みたいに綺麗で冷たい笑みを浮かべている。
向かい側に座る顔見知りの女の子は、頬を染めながら熱の籠もった瞳で悠李を見つめ返していた。
ここは大学の同期が集まる、どんちゃん騒ぎの飲み会の場だということも忘れているらしい。
それはそうだろう。
下手なアイドルよりもずっとかっこいい悠李に「可愛い」なんて言われたら、どんな女の子でも簡単にのぼせ上がってしまう。
本当に罪なやつだ、この男は。
わたしは隣にいる悠李をもう一度、覗き見た。
フープピアスが、店内の間接照明に照らされてきらきらと揺れている。
オレンジの光できらきら、きらきらと。
きっとこの横顔が、わたしの方に振り向くことは一生ないだろう。
あの日見たフープピアスの煌めきは、報われない恋が始まる警告だったのかもしれない。
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