夫婦間不純ルール


 夫の岳紘(たけひろ)の提案を受け入れてから二週間が経つが、私たち夫婦の日常に大きな変化はなかった。すぐにでも他の女性と付き合いだし家に帰らなくなるのかとも思ったが、彼は今までと変わらない時間に帰宅し私の作った夕食を食べている。

「この料理は凄く俺好みの味付けだな、新しく覚えたレシピなのか?」
「ええ、先日の料理教室で作ったときに岳紘さんが好きそうだなって思って」

 こんなことにも気付いてくれるのに、その心は私には向いてないと思うとやはり苦しい。私の一言で彼が少しだけ口角を上げたように見えたのも、きっと自分の気のせいなのだろう。
 今もこんなに岳紘さんに気持ちが残ったまま、何事もなかったように夫婦と言う形だけを演じ続ける辛さ……どうすれば夫に伝えられるの?

「ごちそうさま。(しずく)今週末は夕飯の準備はしなくていい。せっかくだから二人でどこかに食べに行こう」
「え? でも……」

 今週末こそは夫は別の女性と過ごすものだと思っていたのに、私と食事なんて何を考えているのか? 岳紘さんの思っていることがわからず戸惑っていたが、彼は時間と待ち合わせ場所を決めるとさっさとバスルームへといってしまった。

 あの『夫婦間不純ルール』を提案されてから、夫の態度に違和感を覚えていた。あれほど強引にこのルールを受け入れさせたと言うのに、いまだに彼に他の女性の影は見えてこない。
 どう考えても自身の浮気のために作ったとしか思えないルールなのに、いったい何故? 答えが分からないままキッチンの片付けを終え、棚の中から数枚の用紙を取りだしソファーに腰をおろした。


 
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