夫婦間不純ルール
「本当に無理ばっかしてるんですね、雫先輩はアイツの前で」
「そういうつもりは無いの、だけどそれが当たり前になってるところもあって」
愛されたい、特別な相手になりたい。そんな気持ちでずっと夫を支え尽くしてきたけれど、それも今となっては正しかったのか分からなくなっている。
それでも長い間、岳紘さんの機嫌を窺ってきた自分自身を変えることも出来なくて。今もまだどこか遠慮がちな夫婦生活を続けている。
「でも、俺もそうなんですよね。奥さんに対しては今もどこか他人行儀で、彼女の中には踏み込めない。多分、これから先も……」
「奥野君……」
私たちはお互いに夫婦の関係を変えたいのに、怖くてその勇気が出ない。壊れてしまうくらいなら、ヒビが入った状態でそっとしておこうとしてしまって。
だけど小さかったその傷は、時間と共にどんどん広がっていっている気がする。私も奥野君も、その事には気付いているのにまだ動けないでいる。
「……怖い、よね。自分には感情がある、なのに相手が何を考えてどんな未来を見ているのかが分からない。本当に、怖いよ」
「そうですね、俺も雫先輩と同じです。怖くて、前に進めない」
やっぱり私たちは異性というより同士な気がする、同じ悩みを持ち互いの傷を舐め合うようなそんな関係。