夫婦間不純ルール
「麻実さん、よく来てくれたね! この家は分かりにくい場所にあるから迷わなかったかい?」
「いいえ、柳澤部長から地図を頂いてましたから。それとお言葉に甘えて私の妻も同伴させて頂いてます、すみません」
邪魔にならないように斜め後ろに立っていた私を急に紹介されて、慌てて挨拶をする。
「はじめまして、麻実岳紘の妻で麻実雫と申します。今日は夫と一緒にお邪魔させて頂いています」
そう言って用意していた紙袋を手渡し、また一歩後ろへと下がる。
すると何故か柳澤さんは興味深そうに私を見つめてくる。どこかおかしな所でもあったのだろうかと不安になっていると……
「ほお、この女性が麻実さんの自慢の奥さんか。色々話は伺ってますよ、主に貴女の自慢話や惚気ばかりですが」
「や、柳澤部長! そんなことは言わなくてもっ」
自慢話や惚気とはどういう事だろう? 少なくとも私と岳紘さんの間に惚気るような出来事は無かったし、私の自慢話というのもちょっと理解出来ない。
意味が分からないと岳紘さんに尋ねるような視線を投げかければ、彼は焦った様に「違うんだ」と私に言ってくる。いったい何が違うのかもよく分からなくて。
「その、夫はどんな惚気話を柳澤さんにしたのですか? 私も気になります」
「雫⁉ どうして、いきなりそんなことを!」
もし私の記憶にないような自慢や惚気だとしたら、それは私ではなく別の女性の話の可能性がある。そう、岳紘さんが愛するたった一人の相手とか。