夫婦間不純ルール
「料理がとても上手だとか細かい気配りが出来る、それにとても頑張り屋だと。奥さんがとても可愛いとは何度も聞いてましたが、本当に美しい方でびっくりしましたよ」
「……えっと、ありがとうございます」
それって本当に私の事? 確かに料理は結婚前に教室に通って覚えたし、けっこう頑張り屋だとも言われる。細かな気配りが出来ているかは分からないけど、なるべく周りに気を使うようにはしてる。
だけど……岳紘さんが本当に私の事を可愛いと話したりするだろうか? 少なくともそんな言葉を面と向かって言われたことは無い。今日服が似合ってると言われたのも、初めてだったかもしれないくらいで。
もしそれが私の事を思い浮かべて言ってくれたのなら、それは堪らなく嬉しい。けれどもしも他の女性の事を考えていたとすれば、あまりにも辛すぎる。
「分からなくはないですけどね、こんな可愛い奥さんなら自慢くらいしたくなる。麻実さんの事を許してあげてくださいね」
「はい、それももちろん。その……すみません」
流石に笑顔でそう話してくれている柳澤さんに、「それは本当に私の事ですか?」とは聞けない。ただ困惑したまま、彼らの話を笑って聞いてるだけでいっぱいいっぱいだった。
その後に別の招待客が来たことで柳澤さんは私たちから離れたけど、どうしても夫の顔を真っ直ぐに見ることが出来ない。それは彼も同じようでどことなく私たちの間に流れる空気がぎこちない。
「その、気分を害したりはしなかったか? 俺が雫の事を勝手に話したりしてて」
「そんなことは無いけれど、ちょっと自分の事を言われてる気がしなくて戸惑ってる感じ」