夫婦間不純ルール

 こんな風に本音を話したのは久しぶりかもしれない。いつも遠慮してて、言いたい事も全部心の中に閉じ込めてしまっていたから。
 だけど岳紘(たけひろ)さんのこの言い方だと、本当に私の事を周りに話していたのは本当のことらしい。でも、どうしてそんなことを? 岳紘さんは私が貴方以外の別の男性を想う事を望んでいるんでしょう?
 夫の私に対する態度と周りに話している事の違いに、理解も感情も全くついていかない。

「それは、その……なんというか」

 言葉を濁す夫に何となく苛立ちを感じて、ちょうど目の前で重ねたお皿を運ぶ女性を見つけ彼から離れる理由を作った。

「私はちょっと彼女のお皿を運ぶお手伝いをしてきます。またあとで話の続きは聞くわ」
「あ、(しずく)っ……!」

 何かを言いかけた岳紘さんをその場に残して、私は女性に話しかけすぐに手伝いを始めた。どうやら人手が足りなかったらしく、そのまましばらくは岳紘さんの所には戻れなくなってしまった。

「ありがとう、助かったわ」
「いいえ、また何か手伝えることがあれば言ってください」

 手伝いを終えると、飲み物のグラスを渡してもらいそのまま夫の姿を探す。思ったよりも時間が経ってしまったので、どこにいるのか分からなくてウロウロしていると……

「君さ、もし一人なら僕の話相手してくれない? 俺は独身で一緒に話をする相手もいないから退屈でさ」
「え? いいえ、私は……」

 斜め後ろにいた知らないスーツ姿の男性から声をかけられる。
 妙に馴れ馴れしいが、まさかナンパだろうか? こんなホームパーティーで、そんな事をする人がいるのかと驚いていると勝手に了承したと判断したのか男性が私との距離を詰める。


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