夫婦間不純ルール
「ち、ちがうぞ! その女性が俺に色目を使ってきたから相手をしてやっていただけで」
「そうですか、なら妻の手首を掴むその手はどう説明してくれるんです?」
夫の登場に慌てふためく酔っ払いの男は、声をかけてきたのが私だというように言い訳を始める。色目も何も私がこの男性に感じていたのは嫌悪と恐怖だけ、よくもそんな出鱈目を言えるなと思う。
しかしそんな嘘は通じないというように、岳紘さんは私を掴んだままの手をきつく睨んで見せた。
「あ、これはっ……! くそっ、紛らわしくフラフラしてるお前の嫁が悪いんだろう。俺に文句を言う前に自分の妻を注意しておけよ!」
「妻は悪くない、彼女から離れた俺が悪いのだから。文句なら俺が聞かせてもらいますよ、貴方が妻にちょっかいをかけてないという証拠があれば……ですけどね」
そう言った岳紘さんはいつもよりもずっと冷たい雰囲気だった。怒りがハッキリと伝わってくる、こんな彼は初めて見たかもしれない。
それでも夫に謝ろうとしない男性はまだ私の手首を掴んだまま、だけど次の瞬間……
「い、痛い! いてえよ、離せっ!」
ギリギリギリ、と食い込むような強さで岳紘さんが男の腕を掴んだかと思うと、そのまま乱暴に捻り上げた。顔色一つ変えずそんな事をする夫に私は驚いて、焦って彼を止めた。
「ダメよ! 岳紘さん、その手を放して」
私の声にすぐに反応したかのように、岳紘さんは酔っぱらいの男性の腕を離してくれた。まさかいつもあんなに冷静な夫がこんな事をするなんて、まだ信じられない気持ちだった。