夫婦間不純ルール
騒ぎに人が集まってくると、男性はそそくさとどこかへ逃げて行ってしまった。もしかしたら少し酔いが醒めて、冷静になったのかもしれない。
だけどこの状況で残された私たちはどうすればいいのだろう? その場は適当に誤魔化せたが、岳紘さんの機嫌が悪い事は見なくても分かる。
「その、まだ怒ってるの?」
「怒ってはいるが、それは雫に対してじゃない。あの男と……自分自身に対してだから」
どうして私の事で岳紘さんが自分を責める必要があるのだろうか。もともと私が勝手に夫から離れて行動したのだし、そのせいで酔っぱらいに絡まれただけだ。どう考えても岳紘さんに非などないのに。
なのに岳紘さんはそうは思っていないらしくて、何度も「すまなかった」と私に謝ってくる。結果的にはこうして助けてくれたのだし、何度も謝って欲しいとも思ってない。
だから……
「どうしてそんなに怒ってるの? それとも私の為に怒ってくれているの、だったらどうして……」
確証はない、だけどさっきの出来事で何となく気付いてしまった。岳紘さんは私が思っていたのよりずっと、私を気にしてくれているのだと。それが妻に対する愛ではなく、ただの情なのかもしれないけれど。
「それは、俺が……」
「……えっ、うそぉ⁉ あの人って『REIKA-OKU』じゃない? ほら、テレビとかに出てるカリスマヘアメイクアーティストの」
「やだ、ほんと! どうしてここに?」