夫婦間不純ルール
「夫として当たり前のことをしているだけだから、何度も謝らないで欲しい」
岳紘さんは私の事を真っ直ぐに心配してくれる。今までの彼からは考えられないくらい、私からその瞳を逸らさずに。
……どうして、今なのだろう? 自分勝手な事で傷付いているのに、こうして優しくされれば心が大きく揺れる。何度も拒絶されて私じゃ駄目なんだって分かってるのに、また自分を見て欲しいと願ってしまう。
「駄目よ、また欲張りになってしまうもの。貴方を困らせてしまうのは、もう嫌なの」
「雫……俺は困らない。今までだって雫に困らせられたことなんて、一度も無いよ」
岳紘さんが何を言ってるのかよく分からなかった。二人の交際だって私が強引にはじめたようなものだったし、両親が望んだとはいえ結婚をしたがったのも私だけだったはず。
その証拠に初夜の後に岳紘さんは私を「女性として見れない」と言ったのではなかっただろうか。それなのに……
「みんな、どうしてそんな嘘をつくの? そうやって、私に全部嘘つくの?」
「雫? 何を言って……?」
頭の中がゴチャゴチャだった。一つ一つが別々に起きていればまだ冷静でいられたかもしれない。だけどショックな出来事が重なったせいもあり、私はそのまま岳紘さんの胸の中で思い切り泣きじゃくってしまった。
……涙が枯れて落ち着いたころには、私は夫の車の中で静かに眠りについていた。