夫婦間不純ルール
「どうして、いまさらそんなことを言うの? 私から最初に離れようとしたのは、岳紘さんの方でしょう」
嫌味のつもりで言っている訳じゃない、本当に分からないのだ。今になって夫がそんなことを言い出す理由が、どうしても。特別なルールを作って、他に好きな相手を作って良いと言ったのはそっちじゃない。
なのに、今更どうして?
「それは、その……俺が至らないばかりに雫を傷付けてしまったと思う。だけど」
『ピリリリリリ、ピリリリリリ……』
何か言おうとした岳紘さんだったが、ベッド横のチェストに置いてあった彼のスマホの着信音がそれを中断させた。今日はなんだかこうして大事な話をしようとするたびに、何かしらの邪魔が入ってる気がする。
だけど、それさえも私達夫婦の噛み合わない関係を現してるようで笑えて来る。
「……出ないの?」
「ああ、ちょっと外に出てくる。雫はもう少し休んでいるといい」
まだ鳴りやまないスマホを持って、岳紘さんは私の部屋から出て行った。優しい言葉はかけてくれるけれど、やはり優先されるのは電話の相手ということなのだろう。
私の前でその相手と話そうとしないのも、きっと……深く考えなくても、その答えは出てる。
それ以上は夫の事も奥野君の事も想像したくなくて、ベッドに横になると布団を被って身体を丸めて眠ることに集中した。