夫婦間不純ルール
「そういえばここ最近は週末出掛けてないようだけど、麻理さんとは会っていないのか?」
「ええ、麻理もちょっと忙しいみたいで……」
お見合いをすると言っていた麻理は、その準備のためかここのところ忙しいようだ。話をしたい気持ちもあるけれど、彼女にとっても大事な時期だから邪魔はしたくない。
落ち着いたら麻理の方から何かしら連絡が来るだろうと、こちらから余計な事はせず待っている。
「そうか……」
あれ日から、私はあの喫茶店には一度も行っていない。連絡をしようと思えば店に電話するなり出来る事は分かっているけれど、そんな気にもなれないでいた。
だって、あの時の奥野君の笑顔を私はまだどうしても納得できてない。彼は楽しそうな会話をし、奥さんの肩を抱いて優し気な表情を浮かべていた。その光景は、私の想像していたものとは全然違ってて……
「しばらくは私も資格取得に集中したいし、外出は控えめになると思う。でも岳紘さんは気にしないで遊びに行っても構わないから」
「いいや、雫が頑張ってる間は俺は家の事をやるよ。こんなの君が普段やってくれてる、お礼にもならないかもしれないけれど」
そう言うと、自分の食器をキッチンへと運んでいく岳紘さん。その背中を見つめながら、私は有難い気持ちと彼の言動への戸惑いで少しだけ複雑だった。