夫婦間不純ルール

「まだやっているのか? もう日付も変わっているのに」
「……あ、ごめんなさい。キリが良いところまでやってしまおうと思ったら、こんな時間になっていたのね」

 壁掛けの時計で時間を確認すると、もう深夜の一時近くになっていた。資格の勉強に夢中になってしまっていたようだ、明日も朝から仕事だというのに。
 そんな私を心配したかのように岳紘(たけひろ)さんが顔を覗き込んでくる。最近なんだか……私と彼の物理的距離が妙に近い気がして、ちょっとだけ困惑気味だ。

「これ、淹れてきたから飲むといい。寝つきが良くなるらしいから」
「ホットミルク? わざわざ用意してくれたの?」

 渡されたマグカップの中身を見て驚いた、まさかそこまで気を使ってくれているなんて。最近寝つきが悪かったことまで、岳紘さんが気付いているなんて思いもしなかった。
 程よい熱さに暖められたホットミルクを口に含むと、身体の力が抜けてリラックス出来た。これなら今夜はぐっすり眠れるかもしれない。

「こんな時間まで付き合わなくても良かったのに、岳紘さんだって明日も仕事なんだから」
「良いんだ、俺がやりたくてやってる事だから。ああ、髪がまだ濡れているな。俺が乾かすから君はそれを飲んでいてくれ」

 そういえばお風呂を上がってからきちんと髪を乾かすのを忘れていた。ちょっとだけ問題集を解こうと思って、ついそのままにしてしまっていたから。
 でもいきなりそんな事を言われても困る。今までそんなことをされたことも無かったし、こんな近距離で彼に触れられることが少しだけ怖くて。


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