夫婦間不純ルール
「自分でやれるから大丈夫、岳紘さんは先に休んで……ええっ?」
柔らかく断るつもりだったのに、そんな私の言葉を聞かずに岳紘さんが髪に触れてくる。肩に掛けていたはずのバスタオルで、丁寧な手つきで水気を拭きとってくれている。
私のすぐ後ろに感じる岳紘さんの気配、彼の微かな呼吸音が私の胸をこれでもかという程ドキドキさせる。
どうして岳紘さんはこんな風に私に優しくするのだろう? 最初は別の女性を愛してしまった後ろめたさからかと思っていたが、今は何となく違うような気がする。上手く説明は出来ないけれど、今の彼の言動にそんな疾しさを感じられないのだ。
「その時間が勿体ない、睡眠はしっかり取っておかないと。俺も雫が部屋に戻ったら休むから、大人しくそれを飲んで寝てくれないか」
「……分かりました」
そんな風に言われてしまっては、拒否なんて出来るわけなくて。私は自分の髪に触れる岳紘さんの手の感触を意識しないように必死で別の事を考えていた。
私がホットミルクを飲み終えると部屋に戻って休むように言った後、彼は私のマグカップを片付けにキッチンへと行ってしまった。
「……全然、意味が分かんないわよ」
小さな声でそう呟いて、私は自分の部屋に戻りベッドに潜り込むと何も考えなくていいように目を固く閉じたのだった。