夫婦間不純ルール
「どう? 資格の勉強は捗ってるかしら」
「久我さん、そうですね。意外と夫が協力してくれてるおかげで進んでると思います」
仕事が終わった後に久我さんに誘われて、病院近くのカフェでお茶をしている。最近はずっと職場と家の往復だけになっていたから、気分転換にちょうど良かった。
私が開いているテキストをチラリと見た後、久我さんは少し安心したように微笑んでみせる。
「そうなの、最近は旦那さんとの関係も良くなっているみたいね。それは何よりだわ」
「そうなんですよね、私もよく分からないんですけど凄く気を使ってくれてるんです。それが不思議で……」
岳紘さんは家庭の事を任せきりにするタイプではなかったけれど、それでもここまでではなかったのに。本当に彼が何を考えてそうしているのか分からなくて。
素直にその優しさに甘えていいのか迷っていたけれど、今は彼がやりたいようにしてもらっている。
「自分から距離を置こうとしたくせに、今度は縮めてきてるみたいに感じて。私はどう対応するのが正解なのか分からなくなってます」
「そうね、でもそれは旦那さんもきっと同じよ。迷って悩んで、それでも麻実ちゃんとの関係を前に進めたくなったんじゃないのかな?」
そう言われればそうなのかもしれない。だけど今になってそう思ったのはどうしてなのだろう? 岳紘さんの心境の変化の理由は不明なままで。
もしもこのまま私と夫の距離が縮まった場合、あの時交わした『夫婦間不純ルール』はいったいどうなるのだろうか? そんなことも心の中ではまだ気になっていて。