夫婦間不純ルール
「だと、いいんですけど……」
「悩んでるなら前向きな方に考えた方が良いわ。だって、その方が気が楽だもの」
あっけらかんと言われて、一瞬だけポカンとしたがすぐに二人で笑いだしてしまう。久我さんの言う通りだわ、そう考えた方がずっと自分が楽でいられる。
目から鱗が落ちたような気持ちで、スッキリして久我さんと話していると……
「おや? こんなところで奇遇ですね」
私たちが座る席の横を通り過ぎようとしていた紳士が、私を見て立ち止まる。その落ち着いたハスキーな声には聞き覚えがあった、確か奥野君と待ち合わせをする喫茶店の。
「マスター、どうしてここに?」
「いや、知人と待ち合わせの予定だったのですが遅れてくると連絡が入りまして。貴女はお元気でしたか?」
あえて避けていた店、そして奥野君と親しいマスター。何となく気まずくて、小さく頷いて目を逸らしてしまう。奥野君は今も週末はあの喫茶店で私を待っていたりするのだろうか? それを知るのも怖くて……
「雅貴が、貴女が来なくなって落ち込んでるようです。お節介だとは分かってるのですが、貴女が彼ともう会う気が無ければそう伝えておきましょうか?」
「……そう、ですね。私はもう会うつもりはないのでお願いします」
あんな幸せそうな顔を見せられて、いまさらどんな顔をして彼と慰め合うというの? 私はそこまで都合の良い存在にはなりたくない。これ以上惨めな女に、なるつもりはなかった。