夫婦間不純ルール
自宅のすぐ近くにある曲がり角を曲がろうとすると、家の前からなにやら話声が聞こえてくる。立ち止まりスマホを確認すれば、いつも岳紘さんが電話に外に出る時間だった。
このまままっすぐ帰れば、いやでも彼の話を耳にすることになる。それはあまり気が進まなくて、その場で少し時間でも潰そうかと思ったのだけど……
「……ん? ああ……まさか! そんな事はずはない。彼女は純粋で誰より綺麗な女性だ、あんな女と一緒にしないでくれ」
「あんな女」とは、誰の事を言っているのだろう? 普段の彼は他人に対しそんな侮蔑を含んだような呼び方はしない。私と岳紘さんは幼馴染で、彼の事は誰よりも知っているつもりだ。それなのに、そんな呼び方をされる女性に私は心当たりがない。
それはつまり、あんな女というのは……もしかして妻である私の事なの?
「……ああ、分かってる。彼女の事はあの女にバレないように上手くやるつもりだ、お前も協力してくれるから本当に助かるよ」
彼女、というのが岳紘さんの愛する女性だということは簡単に想像がつく。あの女にバレないようにとは、私に隠れてその女性と上手く付き合っていくことなのだろうか?
最近、特に優しかったのはそういう訳なのかもしれない。私はまんまと夫の優しさに絆され騙されそうになっていたという事なのだろう。
……どうしようもなく怒りが湧いて、悔しさで唇が切れるほど強く噛んだ。岳紘さんも奥野君も、どこまで私を馬鹿にすれば気が済むのだろうか?