夫婦間不純ルール
ただ純粋に好きでいたかった、この想いだけは綺麗なままで決して汚したりはしたくなかったのに。体中が熱くなって、目の奥が痛くなってくる。溢れてくる涙を止めるすべなどなくて、アスファルトに大粒の雫が染みを作っていく。
岳紘さんは自分の妻が、すぐそばに隠れてこんな風に泣いてるなど思いもしないのだろう。握った拳は爪が食い込んでとても痛かったが、それでも自分を冷静に保つにはギリギリの状態だった。
「彼女に会ってみたい? ……ああ、そのうちな。それじゃあ、また」
そう話を終わらせると、岳紘さんはいつもと変わらない表情で家の中へと戻っていく。私に見せる、良い夫の仮面をつけて。
さっきまで岳紘さんともう一度始める未来を考えていたはずなのに、そんなものは全て吹き飛んでしまった。目の前で聞かされた裏切りと、彼の本音にショックで頭がクラクラする。
先ほどの電話の相手にも、いつか彼女を合わせると話していた。妻である私ではなく……彼が本当に愛する女性を。それも許しがたかった。
「これから私はどうなるの? 今の話が本当なら、きっとそのうち」
夫の方から離婚を申し出るに違いない。もしかしたらあのルールも自分を有利に私を不利にさせるためのものかもしれない。そんな簡単に岳紘さんの思い通りにはさせたくなくて。
『……俺が協力しましょうか?』
「確かあの時、奥野君は……協力してくれるって」
もう会わないと決めたはずの、彼の言葉が頭の中で何度も繰り返されていた。