夫婦間不純ルール
Rule 13
「おや、いらっしゃい。どうぞ、奥の席へ」
もうここには来ないつもりだった。あの日にマスターにもはっきりそう言ったはずなのに、彼は意外そうな顔をしただけですぐに奥の席を勧めてくれた。
相当に思いつめた表情をしていたのかもしれない、人に聞かれたくないような大事な話をすることをマスターは何となく察しているようだった。
「コーヒーをお願い出来ますか? 前に淹れてもらった、あの味が恋しくなったんです」
「……それはどうも。彼ももうすぐ、ここに来ると思いますよ」
「そう、ですか」
こうしてここに来るまで、それなりに葛藤はあった。奥野君は協力してもいいと言ってくれたけれど、結局は私達夫婦の問題に巻き込む形になる。その申し訳なさと、勝手に会いに来るのをやめたバツの悪さで心は複雑で。
夫の岳紘さんに対して思うところもある、こんな形で彼の行動や隠し事を調べて暴いていいのかと。だからと言って、このまま馬鹿な妻のフリをして気付かない顔をしていられるのかとと聞かれれば……答えはノーだ。
私だってちゃんとした一人の人間で、喜怒哀楽の感情だってあるのだ。あんな話を聞かなかった事にして平気で岳紘さんとの結婚生活を続けることなんて出来るわけない。
だとすれば、自分が選べる選択肢は自ずと決まって……
「お待たせ、雫先輩。やっと会えたね」