夫婦間不純ルール
Rule 14
「麻実ちゃん、今日は午前だけだったっけ?」
昼の休憩時間に入り、ロッカーから荷物を取り出し換える準備を始めた私に久我さんが声をかけてきた。
今日は奥野君と約束した木曜日だが、この時間に仕事を上がれば十分間に合うはず。
今日の結果次第によっては私と岳紘さんの関係が大きく変化する可能性だって十分あり得る、その覚悟は決めてきたつもりだった。
「はい。お先に失礼しますが、後のことをよろしくお願いします」
「……ねえ、最近の麻実ちゃんって凄く無理してるでしょ? 今日もそれが早退の理由なの?」
久我さんは鋭い、明るく振舞いながら周りの様子をしっかり観察して声をかけている。それが有難くもあり、少しだけ辛かった。
無理をしていることがバレている、自分がもう限界に近い事を再確認させられた気がして。
「そんなことないですよ、多分……もうすぐ全部スッキリするはずですから」
「え? それってどういう……」
戸惑う久我さんに笑顔を見せると、そのまま裏口から外に出る。そうしなければきっと、彼女の前で涙を零してしまうから。
スマホの電源を入れて、ディスプレイを指で操作する。画面には奥野君からのメッセージが映し出されていて、それを確認し終えるとスマホを鞄に押し込んでまた速足で歩き出した。
余計な事は考えないように、ただ前だけを向いて――