夫婦間不純ルール
「すみません! 少し、待たせちゃいましたか?」
「いいえ、私も今さっき来たところ。それに、ちょうどこの窓から奥野君が走ってきてたのが見えてたから」
約束した時間の五分も前だしね、と付け加えれば奥野君は「そうですね」と笑って見せた。のほほんとしたその雰囲気は今から夫の浮気を突き止めに行く緊迫感とは程遠くて、何となく非現実的だった。
でもそれはきっと私のことを思っての奥野君の気遣いなのだろうから、こんな時くらいはそれに甘えてしまうのも悪くない。
「雫先輩、この席が正解です。ここからだと、アイツがそこの道を通るのがよく見える」
「岳紘さんは、よくここを通るの?」
少なくともこの駅に来たのは私は初めてだ、夫がこんなところに来ているなんて話も一度だって聞いたことなんてなかった。なのに、何故? なんて考える必要もなかった。だって、その答えは一つしかない。
……この駅の近くに、あの時の電話の相手が住んでいるってこと。
「ええ、いつも同じくらいの時間に同じ女性と。一人の男の子を連れて」
「……男の、子?」
相手の女性に旦那さんがいることは分かっていた。だけど、それだけでなくその女性には子供までいたなんて。ショックが大きくて、上手く呼吸が出来ず苦しくなる。