夫婦間不純ルール


「そんなのって……」
「一旦落ち着きましょう、(しずく)先輩。戸惑う気持ちは分かりますが、冷静になってください。あと少しで、アイツがここを通る時間になりますから」

 差し出されたグラスを手に取って一気に飲み干すと、冷えた水のおかげで少しだけ気持ちが落ち着いてくる。奥野(おくの)君の言う通りだ、感情的になっても何も良い事なんてない。
 今は自分の心を殺して浮気の事実を確認し、その証拠を掴むのが一番大事なのだから。

「ごめんなさい、だいぶ落ち着いたわ。もう大丈夫だから」
「そうです、その調子でいきましょう。俺は先に会計を済ませてきちゃいますね、いつでも出れるように」

 そう言って奥野(おくの)君は私の分の伝票も持って行ってしまう、後でお金を渡さなくては。そんなことを考えながら窓の外に目をやると……
 そこには若い女性と、その隣で笑う男の子。そしてその子供と手を繋いで歩く夫の姿があった。

(たけ)……(ひろ)さん……」

 心のどこかでは奥野君の見た男性は岳紘さんに似た別人なのかもしれない、そんな期待を抱いていた。だけど、窓の外に映るその姿は間違いなく自分の夫で。
 会社に行くと言って出たはずの岳紘さんだったが、朝着ていたはずのスーツではなく見たこともない私服姿に変わっていた。


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