夫婦間不純ルール
「来たんですね、急いで後をつけましょう!」
支払いを済ませたらしい奥野君が、私の腕を引っ張って立ち上がらせる。そうされることで私はやっと、自分が何をすべきかを思い出すことが出来た。
喫茶店の横の道を通り過ぎていく、岳紘さんたちの姿は一つの家族のようにも見えた。本当の彼の家族は、私のはずなのに……
すぐ傍に居る妻の存在に、岳紘さんは全く気付きもしない。
「行けますか、雫先輩?」
「大丈夫、私は大丈夫だから」
よほど酷い顔をしているのだろう、奥野君が心配そうにそう声をかけてくる。でもここで引き返しても意味はない、もう私はこの目でしっかりと見てしまったのだから。
この先どうするかなんてことは考えてない、ただハッキリとさせておくべきだと思ったのだ。岳紘さんが本当に想う女性のことも、手を繋ぐほど仲の良い男の子の存在も。
「行きましょう、どうやらあの角を曲がるみたいだわ。あの先は……?」
「商店街のはずです、買い物でもするんでしょうか」
一定間隔をあけて、私と奥野君は岳紘さんたちの後をついていく。彼らはいくつかの店の前で足を止めては、店員と話をして何かを購入していた。
その様子は馴染みの客、というように見えて。そのまま買い物袋を持って三人で並んで歩いていく、そんな彼らの向かう先は閑静な住宅街だった。