夫婦間不純ルール


「……あの家みたいですね、後で俺が表札を確認してきます」

 ごく普通の一軒家、その玄関で女性がポストを確認した後にドアを開ける。すると男の子が岳紘(たけひろ)さんの腕を掴んで家の中へと連れていく、それが当然の事のように。
 閉じられた玄関の扉、夫は私以外の女性の家に躊躇いもなく入っていったのだ。今まで岳紘さんが私に紹介してくれた人物の中に、先ほどの女性はいなかった。
 家に上げてもらうほど仲の良い女性、子供もあれほど岳紘さんに懐いている。
 知りたいと思ったのも私だったが、こうして事実を目の当たりにするとショックはとても大きかった。裏切られた事への悲しさや悔しさ、いろんな感情が入り混じり私の心を乱していく。

「そう、こういう事だったのね。私が何も知らないだけで、岳紘さんはずっと……」

 奥野(おくの)君から岳紘さんを木曜日に見ると聞いて、私はこっそり職場に確認をしていた。毎週木曜日、夫はここ数年いつも午前中だけの勤務だったそうだ。つまり、私と結婚する前から岳紘さんは、あの女性と……

(しずく)先輩、表札の名前は【小野前(おのまえ)】でした。知ってますか?」
「いいえ、初めて聞くわね。これからどうするの、このまま岳紘さんが出てくるのを待つ?」

 私がそう聞くと、奥野君は小さく首を振った。私ももうここにいるのは辛かったから、彼の答えにホッとして。そのまま無言で二人でさっきの喫茶店まで歩いて戻った。


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