夫婦間不純ルール
運が悪い、どうして今日に限って職場の方にお義母さんが来てしまったのか。普段の彼女のかかりつけは全く逆方向で、滅多にうちの病院に診察を受けに来ることなんてないのに。
そんなことを義母に言ってしまう訳にもいかず、何か上手く誤魔化せる言い訳を急いで考える。
「そうだったんですね。今日は午後から知人と会う約束をしてたので、今は別の駅に来てるんです」
『あら、そうだったのね? どこの駅にいるのかしら、雫さんに渡したいものがあって来たのよ』
どうして今日なのだろう? 今いる場所を義母に伝えることは、私が岳紘さんの浮気の証拠を集めていることを自らバラしてしまうようなものだ。
このままこの場所にいるのもマズいと思って、慌てて喫茶店から出ようとしたのだが……
「すみません、○○駅までタクシーをお願い出来ますか?」
入り口近くのカウンターに座っていた中年の女性が、大きな声で店のスタッフにそう話しかけてしまって。持っていたスマホから、その声が義母にまで聞こえてしまったらしく。
『……○○駅? 雫さん、ねえ貴女……どうしてそんな場所に? ああ、そうだったわ! ごめんなさい、私は急用を思い出したからまた今度かけるわね』
「え? あの、お義母さん?」
急に切られた電話。私はわけが分からなくてしばらくスマホを見ていたが、心配して様子を見に来た奥野君に言われて先ほどまで座っていた席に戻ったのだった。