夫婦間不純ルール

 奥野(おくの)くんの言葉の意味が分からず聞き返せば、彼はあからさまにガックリと肩を落としてみせる。何が気にくわないのか知らないが、言いたいことがあるのならばハッキリと言えばいいのに。
 何かを察して欲しそうなのは何となく分かるが、昔から私はそういうのがあまり得意ではない。よく鈍感だとか鈍いと周りから怒られることも多かった。

「俺が(しずく)先輩のいろんな事を詳しく覚えている理由、本の少し位は気になるようになりましたか?」

 ああ、そういうこと? その話題はもうすっかり頭の中から追い出してしまっていた。でも、改めてそう言われると少し気になるようになってしまうから不思議だ。
 だけどそれを素直に認めたくないのは、今も彼が私にとって弟分のようなものだからなのかもしれない。

「どうかしらね、その薬指に光る指輪についての話の方が私は聞きたい気がするわ」
「……あー、気付いちゃいました?」
「当然よ、奥野くんだって隠す気なかったでしょう?」

 彼の左の薬指にはめられたプラチナのリングは、シンプルだったがすぐに結婚指輪と分かるデザインだった。思わせ振りな台詞を口にしながらも、奥野くんはずっとその指輪を私に見せつけていたのだから。

「先輩も結婚したんですね、相手は……やっぱりあの時のアイツ?」


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