夫婦間不純ルール
奥野君の言っているアイツ、というのはもちろん夫の岳紘さんのことだ。私の初恋は岳紘さんで、学生の頃も、それは誰もが知っていることだった。当の本人の岳紘さんも含めて。
そういえば奥野君にも何度も岳紘さんの良さを何度も話し惚気てしまっていた気もする。彼は毎回笑って聞いてくれていたけど、今考えると相当恥ずかしいものがある。
「やっぱり、って……どうしてそう思うの? あの頃から何年も経ってるのよ、別の人を好きになっている可能性だってあるのに」
「無いよ、そんなの。雫先輩はアイツしか見えない、そういう呪いにかかってるんだから」
呪いとはどういうことなのか? 夫である岳紘さんは少し拗らせた初恋の相手、自分にとってはその程度の認識だったのだけど。
……どうやら、奥野君からするとそうではないらしい。
「結婚相手があの人なのは当たってるけれど、呪いは酷いんじゃない?」
「そうかな? 俺から見れば呪いで間違っているとは思わないけど、先輩が不愉快に感じたなら謝りますよ。でも……その結婚指輪、先輩にちっとも似合ってないね」
私の左の薬指の指輪に視線を移すと、奥野君は遠慮もなくそう言った。どちらかと言えば大人っぽい容姿の私に可愛らしいデザインのリング、夫には言えなかったが自分に似合ってるとは思えずにいた。
それをまさか、後輩の奥野君に指摘されるなんて……