夫婦間不純ルール


 岳紘(たけひろ)さんはこのレストランを知人に教えてもらったと言っていたが、彼にこんなお洒落な店を教えてくれるような人物に心当たりはない。もちろん仕事など私の知らない人との付き合いもあるだろうけれど、なぜか何となく違和感を覚えずにはいられなかった。

「どうかしたのか? 少しボーッとしているみたいだが」
「そうかしら、とても素敵なお店で少し緊張しているみたい」

 心配してくれるのも今までと変わらない、そんな風に優しくするのなら何故あんなルールを私に押し付けてくるのか? 大事にすることと愛することは違う、彼にとってはそうなのかもしれないけれど私は……
 複雑な気持ちのまま口に運ぶ前菜、綺麗に盛り付けられたそれは決して不味くはないけれど今の私には美味しいと感じることが出来ない。笑顔で料理を運んでくるウエイターに申し訳ないと思いつつ、料理の感想を作り笑顔で誤魔化した。
 
「本日のデザートです」
「紫イモのモンブラン、(しずく)は好きだっただろう? せっかくだから俺の分も食べるといい」

 ウエイターに皿を私の方に二つとも置くように指示して、岳紘さんは自分だけ珈琲に口をつけた。紫イモのモンブラン、コンビニのそれが好きで学生時代によく食べていた。彼がそんなことを覚えてくれていたなんて……その事がとても嬉しかったけど、余計に胸が苦しくもなった。

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