夫婦間不純ルール
「体調があまり良くないようだからタクシーを呼んでおくように頼んでおいた」
席に戻ると岳紘さんはそう声をかけてきた。嫌味な感じはない、いつも通りの彼にしか見えないが何かが引っかかるような気がする。
ネガティブな思考に引きずられて、それすらも悪い事の前兆のようにさえ感じてしまう。
「そう、ありがとう。今日はせっかく誘ってくれたのにごめんなさい」
「いいや、雫の不調にも気付かないまま無理させて悪かった。さあ帰ろうか、君はタクシーの中で少し眠ると良い」
優しい、本当にこの人はとても優しい。でもそれが自分だけのものにはならないと気付いてから、どうしようもない感情を持て余している。
……嫉妬、だけじゃない。寂しさや虚しさ、それが私を酷く悩ませていることに岳紘さんは気付いているのだろうか?
「俺の身体に寄りかかればいい、そのままじゃ眠りにくいだろう」
「え? でも……」
タクシーに乗り込み窓側に顔を向けた私に、岳紘さんは当然のように言ってくる。
普段は全くと言っていいほど私に触れないのに、どうしてそんなことを言うの? 互いに溝の出来た私達、それは言うほど簡単な事ではなかった。
「……っ⁉」
迷う私の肩を彼が大きな手のひらで包んで引き寄せたのは、何かの間違いではないか? ポスンと岳紘さんの腕に自分の頭があたっても、まだ今起きていることが理解出来なかった。