夫婦間不純ルール
「もう着くから、大丈夫……」
「……」
私がわざと距離をとろうとしていることに岳紘さんにも伝わったのだろう、気まずい空気が二人の間に流れる。タクシーが家の前で停車し、夫が支払いを済ませている間に私は車外へと出る。
息苦しくて、これ以上二人きりではいたくなかったから。さっさと入浴を済ませて自室で休んでしまえば良い、そう思って急いでお風呂の湯はりボタンを押してバスルームから出た。
「雫、少しだけ話せないか?」
まさか浴室の外で岳紘さんが待っているとは思わなくて、驚いて後ずさる。そんな私の行動に、彼が傷付いたような表情をした気がして……
「あ、違うの。今のはちょっと驚いて大袈裟な反応をしただけ」
「分かってる、驚かせてしまって悪かった」
咄嗟に口から出た言葉が言い訳のように聞こえてしまわないか、そんなことを気にする辺り私はまだこの人の事を好きなままなんだと思う。今、話せる余裕なんてなく顔をあげれないまま私は首を振って見せた。
「ごめんなさい、今日はもうすぐに休みたいの。また今度ちゃんと聞くから……」
「……わかった、無理言ってすまなかった」
そのまま岳紘さんの隣をすり抜け、自室へと走って戻った。今日に限っていつもとは別人のような態度で私に接する、そんな彼の言動に戸惑わされたまま私は眠れない夜を過ごしたのだった。