夫婦間不純ルール
「そんな心配いらないわよ、奥野君だって相手がいるんだし。私だってちゃんと――」
ちゃんと、夫を愛してる。そう言うつもりだったのに、何故だか言葉が出てこない。たとえ岳紘さんに酷いルールを作られたとしても、自分が彼を愛する気持ちに変わりはないはずなのに。
私が気づかないうちに、夫を想う気持ちが少しずつ歪み始めているのだろうか? ずっと綺麗なままの愛情を両腕いっぱいに抱えて、いつまでも彼に捧げるつもりだったのに……
「ねえ、雫。アンタ、やっぱり何かあったんじゃ……?」
「違うわ、何もないの。何もないから、麻理は心配しないで」
「雫……」
それ以上は問い詰めないでほしい、そう態度で表せば麻理はもどかしそうな表情を見せながらも口をつぐんだ。こう言う時、私が何を聞かれても答えない事を彼女はよく知っているから。
麻理にこんな表情をさせてしまって申し訳ないとはおもう、でも真実を知れば友達思いの彼女がどんな反応をするか。もしかしたら離婚を進めてくるかもしれない、それは私にとって正直厳しくて。
もし離婚話が出たとしても両親や岳紘さんが賛成するとは思えないし、やはり私がまだ夫のことを好きなことには変わりない。岳紘さん以外の男性を意識することも考えられないし、触れられることだって……
そう考えた瞬間、何故かあの日――奥野君が私の髪に触れた時の感覚を思い出してしまった。
「どうしたの、雫? 急に赤面したりして」
「え? そんなことは……」
何故だか分からないが、体温が上がっていく気がする。意識してないはずなのに奥野君のあの時の顔が、浮かんでしまい心が落ち着かない。
一体どうして……?