夫婦間不純ルール
Rule 5
「あのちょっといいですか、麻実さん。その、来週の親睦会について参加するかどうか記入してないのは麻実さんだけなんですけど……」
「え、ああ。それなら……」
まだこの医院に勤めて間もない男性医師からそう聞かれて、私はいつも通りの返事をしようとした。会社での飲み会があるたびにこうして聞いてくれているが、私がそれに出席したのは片手で数えられるくらいだ。
もともとお酒をあまり飲まないし、賑やかな場所が得意ではない私がいれば周りに気を使わせてしまうかもしれない。それに……
「ダメよ、麻実ちゃんは旦那さんが心配性でいつも不参加なの。男なんて少しくらい放っておいておけばいいのに、麻実ちゃんは真面目なんだもの」
「そういうわけでは……」
私が勝手に岳紘さんに心配かけたくなかっただけで、彼がどう思っているかなんて本当は分からない。ただ一度だけ、飲み会の最中にメッセージが送られて来たことがあるだけ。
……それを私が今でも気にしている、それだけの事でしかなかった。
「えー、残念です。これをきっかけに麻実さんとも仲良く出来たらと思ってたんですが」
「あらら、彼がこう言ってるけれど麻実ちゃんどうする? 私は貴女が参加してくれたら嬉しいんだけど」
半分は面白がっているだけだろうが、私に良くしてくれている先輩事務員の久世さんはそう言ってくれる。それをみた隣の男性医師もウンウンと頷く仕種をするのでつい迷ってしまう。
もし私が飲み会で遅くなっても、きっと岳紘さんは気にはしないだろう。それどころか他によい男性を見つけるのに良いと賛成するかもしれない。そう考えると胸が締め付けられるような気がした。
こんなに苦しいのがずっと続くのなら……そう思ったら、後先考えるよりも早く言葉が出た。
「やっぱり参加します、私」