夫婦間不純ルール
辛い現実ばかりと向き合ってるつもりになって、一人で全部抱え込んでいたけれどそれは違ったのかもしれない。もっと周りを見て今の自分に何が出来るのか、これから何が必要なのかを見つめ直して前に進む努力をしなければ。
……こうして、私のことを気がけてくれてる人に情けない姿ばかりは見せられない。
「久世さん、わたし……あ」
今の気持ちを真っ直ぐに伝えようとした瞬間、ポケットに入れたままになっていたスマホが震える。着信音じゃない、だけど私にとっては特別なメッセージの受信音。個別に設定されたそのメロディーが、いまでもこうして私の心を揺らす。
ゆっくりスマホを取り出して、ロックを解除し送られてきたメッセージを確認する。ああ、どうして……
「旦那さんからよね? 大丈夫?」
「……ええ、大丈夫です。大した用ではなかったので」
そう、別にどうって事ない。何なら返事をしなくてもいいような内容に過ぎないのに、私のスマホを持つ手は震えていた。どうして今になってこんな言葉を私に送ってくるのかと。
『楽しんでおいで、帰ってきたら君の話が聞きたいから』
妻である私を遠ざけるようなルールを作ったのは岳紘さんの方なのに、これじゃあまるで……期待しそうになる心に私は慌ててストップをかける。後で肩透かしを食らってガッカリするのは自分なのだ、このメッセージに深い意味などきっと無いに違いないのだから。
「戻りましょうか、だいぶ酔いも冷めてきましたし」
「そうね、でも麻実ちゃんはもう帰った方がいいわ。私がタクシーを呼んであげるから」