夫婦間不純ルール
久世さんにはもしかしたら自分の悩みを気付かれているのかもしれない。もちろん全てを分かっているわけではないだろうけれど、彼女の気遣いで何となくそう思った。
……全部を話せなくても、久世さんがこうして背中を押してくれるだけでとても心強いわ。
「はい、ありがとうございます」
「あら、ちょっと元気出たみたいね。じゃあ私が荷物を持ってくるから待っていて、麻実ちゃんが帰るって言ったら男共が五月蠅いでしょうから」
そう言って軽い足取りで久世さんは店に中へと戻っていく。その様子を少しだけホッとしながら見つめていると、手に持っていたスマホが新しいメッセージを知らせてくる。
岳紘さんは何度もメッセージを送ってくるような人ではない、少なくとも今まではそうだった。それなのに……
「何で……?」
私の知っている夫はこんな事でメッセージを送ってくる人だった? 今まで私から何度メッセージを送っても、必要最低限の返事しかもらっていなかった。岳紘さんはそういう人だと思い込むことで、その寂しさを必死で誤魔化していたのに。
『雫、ごめん。コーヒーの詰め替えが、どこにあるのか教えて欲しい』
……何故、今コーヒーの詰め替えを? 思わず首を傾げてしまう、私が今朝見たときはまだ詰め替えが必要な状態ではなかったはずなのに。
確かに普段詰め替えをしているのは私だし、彼は分からないのかもしれないが。それなら自販機で買ってくれば良さそうなのに。ストックの置き場はメッセージでは説明しにくい、今から帰るからと返事を送って久世さんの呼んでくれたタクシーに乗り込んだ。