夫婦間不純ルール
岳紘さんの態度に違和感を感じながらも、面と向かって「どうしたの?」と聞く勇気はなくて。私に気持ちが無いのならば、中途半端な夫としての対応などして欲しくないのに。
……どうしても、もしかしたらと期待してしまうから。
お酒で火照る身体を少し低温のシャワーで冷やしていく、そうしなければ気持ちが落ち着かない気がして。その間も何度も夫の行動について考えてみたけれど、結局は彼に自分が振り回されるばかりだ。
バスタブにゆっくりと身体を沈めて息を吐くと、それまでの緊張が少し解れていく気がする。爽やかな香りのする乳白色の入浴剤も、岳紘さんが選んで準備してくれていたのだろうか?
「ダメなのに、どう頑張っても彼は私を見てくれないのだから……」
何年も傍にいて、結局は妹という立場にしかなれなかった私。身内に対するような愛情はあっても、岳紘さんのただ一人の女性にはきっと一生なれない。そう、ちゃんと理解しているのに。
それでも優しく「雫」と名前を呼ばれれば心が震えるし、自分を見て欲しいという欲がわいてくる。
「どうしようもないの、本当に」
行き場のない想いと、抑えつけるしかない自身の願いをずっとこの胸に抱いたまま。この温かなお湯の中に入浴剤と同じように溶けてしまえたら、なんて意味のないことをしばらく考えていた。