夫婦間不純ルール
「何をしているの、岳紘さん」
「ああ、いや……」
お風呂上りにミネラルウォーターを飲もうとキッチンに入ると、なぜかそこに岳紘さんが立っていた。普段は余程のことがなければ彼は台所をうろついたりはしない、だから驚いたのだけど……
彼が何かを身体で隠そうとしているように見えて、岳紘さんに触れないように気を付けながら覗いてみる。
「えっと……何か作っていたの? お腹がすいたのなら言ってくれれば先に作ったのに」
「あ、いや。そういうんじゃなくて」
ガスレンジに置かれた小さなお鍋、湯気が出ているので今何か作っていたのは間違いない。正直、岳紘さんが料理をしたところなど見たことのなかった私はかなり吃驚した。
共働きということもあり、洗濯や掃除は時々手伝ってくれていたが料理だけは手を出そうとはしなかった。それなのに、何故?
「最近、岳紘さんって……」
何か変よ、そう言いかけてやめた。二人の間にあんなルールを作った時点で、彼の中で私たちの関係が今までとは違うものになっているのかもしれないと考えたから。
いつまでも、好きでいるのは自分だけ。そう思うと虚しくなって、冷蔵庫からペットボトルを取り出しそのままキッチンを出ようとする。
「……その、雫は腹が減っていないか?」
「……え?」