夫婦間不純ルール

「あ、美味しい……」

 意外にも岳紘(たけひろ)さんの作ってくれた雑炊はとても美味しかった。いつも私が普段作るそれよりも、彼の料理の方がスッキリ食べやすいくらいで。一口、また一口と蓮華を運ぶ手が止まらなくなる。食べなくても良いかと思っていたのが嘘のように、あっという間に岳紘さんがよそってくれた雑炊が胃の中に収まってしまった。

「おかわり、するだろ?」
「え、でも……」

 このままでは岳紘さんの分まで食べてしまいそうで、もう十分だと伝えようとしたのだけれど。

「そんな顔して食べてくれるのなら、作った甲斐があった。ほら、お代わり」
「そんな顔って……私、変な顔してたの?」

 何となく、本当にちょっとだけど岳紘さんの機嫌が良いことに気付く。いつもは夫婦として必要な会話くらいしかしてなかったのに、どうして急にこんな事をするのか分からない。
 私に触れられないから、私と距離を置くためにあんなルールを作ったんじゃないの? こんな態度を取られてしまうと、余計なことを考えて胸が苦しくなるのに……

「いや、(しずく)が夢中になって食べてる姿ってハムスターに似てる気がして。可愛いだろう、そういうのって」
「か⁉︎ そ、そんなふうに可愛いって言われても嬉しくなんかないし……」

 初めてかもしれない、岳紘さんから面と向かって可愛いなどと言われたのは。例えそれが小動物的な意味だったとしても、慣れない言葉に一気に顔が熱くなるような気がした。
 本当に、今日の岳紘さんは一体なんなの? まさか私を揶揄ってるのかと睨んでみても、彼は不思議そうな表情をするだけで。


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