夫婦間不純ルール
これ以上は目を合わせないようにと、岳紘さんに渡されたお椀から黙々と雑炊を口に運んでいたのだけど。しばらくはそんな私を無言で見つめていた彼が、少し戸惑いがちに聞いてきた言葉にその手が止まる。
「……その、今日の親睦会は楽しかった? 普段の雫ならこういうのは断っていたから、今回はよっぽど参加したい訳があったんだろう」
「どういう、意味?」
何かを探るような言い方に、二人の間にピリッとした緊張感が生まれた。私は決して疚しいことはしていない、久我さんや他の同僚とのおしゃべりを楽しみたかっただけ。それなのに……
「ルール、忘れたわけじゃないだろ。もし雫にとって良い相手が見つかりそうなら、それを知っておければと思って」
岳紘さんのその台詞で、温まりかけていた心が一気に冷えていく。まるで猛吹雪の中に置き去りにされたように、この身体も心も凍えてしまうようだった。
目の奥がツーンと痛い、そこだけが他の場所に反して熱を持っているみたいに。
「どうして……」
「え? 何」
冷えた心と身体が今度は徐々に熱くなっていく、それは怒りからだと自分でもハッキリと分かった。
どうして私は誰よりも愛する人に、こんな事を言われなければならないのだろう? あまりに残酷な彼の言葉に悲しみと悔しさが綯い交ぜになってこの心を乱していく。