夫婦間不純ルール
もともと岳紘さんが他人の感情の機微にあまり敏感な方ではないことは分かっていた。それもマイペースな彼の魅力だと思えていたはずなのに、それが今はこんなに私を苦しめる。
わざとならまだ感情的に自分の気持ちを思い切りぶつけても良いのかもしれないが、岳紘さんが本気でそう考えるのならば私はどうすればいいのだろう?
「……そんなに、私に恋人を作って欲しいの?」
「前も話しただろう、その方がお互いのためだと思うからだ」
それは岳紘さん主観の考え方に過ぎないし、私はそんな事を望んでなんかいないのに。だうしてただ、彼を一番好きなままでさえいさせてくれないのだろう。
何年も抱いている純粋な想いを否定されているようで、どうしようもなく辛かった。
「じゃあそんな事を聞くために、こうして料理まで作って待ってたわけ? それは、ご苦労様」
「いや、俺はそんなつもりじゃ……」
口から出てきた言葉は酷く嫌味たらしいものだった。冷静でいようと思ったけれど、私もそこまで余裕のある状態ではなかったのかもしれない。
彼の驚いた顔を見た瞬間「しまった」と思ったが、自分は悪くないとつい岳紘さんから視線を逸らしてしまう。
……それが私を真っ直ぐに見つめている夫にどんな誤解をさせてるのかを、この時は何も知らないままに。