夫婦間不純ルール
自分の頭の中が真っ白になる。脳が……心がさっきの岳紘さんの言葉を理解することを拒否しているようで。胸が苦しくなって、一気に強い吐き気に襲われた。酷く酔った時のように視界がグルグルと回って、身体が大きくふらつきそうになる。
今、大きな音を立ててしまっては私が彼の話を聞いていたことがバレてしまう。必死にその状態から体勢を立て直し、岳紘さんに見つからないように静かにその場所を後にした。
おさまらない吐き気をトイレまでは我慢出来たが、そのまましゃがみ込み先ほど食べたものを全て戻してしまう。何もかもが、今は辛くて仕方がない。
温かくて美味しかった雑炊も、気にしてる素振りのスマホへのメッセージも。何もかもが私ではない誰かのためのように感じて。
「今さら、そんなのって……」
彼は私に一度しか触れてくれなかったが、それでも妻という立場の私を愛情はなくとも大切にはしてくれてると思っていたのに。岳紘さんには既に、特別に想う相手がいるというのだろうか?
あんな風に切なさを滲ませ話す彼を、私は知らない。さっきの言葉はいったい誰に向けられたセリフなのか、夫はどんな人を想い浮かべながらそう言ったのか。
……だけど、それが私ではないことだけは確かで。