夫婦間不純ルール
こんなにも胸が痛くて息が苦しいのに、すぐに縋りつける相手すら私にはいないだ。この家で岳紘さんとどれだけ一緒に暮らしていても、私は一人には変わりないのだ。
このまま何事もなかったかのように寝室に行って眠ることなんて出来るわけがない。お手洗いから出るとスマホを片手にフラフラとした足取りでベランダに出る。
こんな状態の私の話を聞いてくれる相手は麻理くらいしかいない、震える指で彼女のナンバーを押して発信するがこんな時に限って留守電に繋がれてしまった。なんど繰り返しても流れるのは冷たい音声ガイダンスだけ、それが余計に余裕のない私を焦らせる。
――苦しいの! 誰でもいい、私を助けて‼
そう祈った瞬間、浮かんだ人物がどうして彼だったのか。土曜ではないけれど、もしかしたらあの場所に行けば会えるかもしれない。
この時には正常な判断が出来なかったせいもあるのかもしれない。もう夜遅い時間だという事は分かっていながら、私は財布とスマホを持ってそのまま家の裏口からこっそりと抜け出したのだった。
家から少し離れたコンビニでタクシーを呼び、ドライバーに行き先を告げて目を閉じる。僅かな可能性しかないと分かっている、それでも瞼の向こうにはただ一人を思い浮かべていた。