夫婦間不純ルール
岳紘さんはあの時、間違いなく「本当の愛」と口にした。それは私との関係がそうではなかったのだとハッキリ言っているようなもので。
彼が私の事を愛せずにいた事は分かっていた。けれど心のどこかでもしかしたら、と期待していたのも事実。それをこれから先、絶対に有り得ないと否定されたのと同じこと。
置かれたコーヒーカップは触れると熱いくらいなのに、私の心の中は寒々としていて。そのちぐはぐさに笑いが込み上げてきそうになる。
「夫婦間不純ルール、ね……」
やはりあの時決められたルールは岳紘さんにとって都合の良いものだったに違いない。お互いのためだと言いながらも、きっと彼は……
あの時にハッキリとそんなルールは嫌だ、自分たちに必要ないと言えていれば何か違った可能性はある? いいえ、きっとその時には既に夫には愛しい人がいたに違いない。
「もしかしすると、今だって……」
私が家にいないことに気付いた岳紘さんが、その女性に会いに行っているかもしれない。それどころか自分が出て行った事が彼にとって都合が良い可能性だってある。
そう考えれば考えるほど、胸が締め付けられるように苦しい。岳紘さんから拒否されたあの夜と同じくらいか、もしくはそれ以上に。
マスターが戻ってきたのか、カランと扉の開く音がしたが俯いたまま動けない。きっととても酷い顔をしているだろうから、誰にも見られたくなかったのに。
「お待たせ、雫先輩」
「え? 奥野君、どうして……」