夫婦間不純ルール


 奥野(おくの)君が私の事を考えてそう言ってくれていることは分かる、誰も好き好んで他人の家庭事情になど踏み込みたくはない筈だから。もしそこに隠れた下心があったとしても、彼が強引に何かを出来るような人間ではないことも十分過ぎるほど知っていた。
 だからと言ってすぐに「そうして欲しい」とは言える訳がない、もしそんな事をして夫の全てを知ってしまったら私はその後どうずればいい?
 隠れて岳紘(たけひろ)さんの行動を監視して、それがバレてしまったら私たちの夫婦関係は修復不可能になるのではないだろうか。
 ……今までも、きちんとした夫婦関係とは言えなかったのかもしれないが。

(しずく)先輩が辛い時は、必ず俺が支えになると約束しますから」

 そう言って真剣な眼差しを向けてくる奥野君の左手の薬指には、以前と変わらないプラチナのリングが輝いている。そう、私の指にも同じように結婚指輪は着けられたまま。たとえそれが形だけのものであっても。

「気持ちは嬉しいの、でもこれは()()()()()の問題だから」
「雫先輩、でも……っ」

 奥野君の提案に心が揺らがなかったわけじゃない、それほど私は強い心を持った人間ではないから。それでも彼にまで迷惑をかけたくない気持ちと、岳紘さんとの関係を壊したくない感情を優先することしか出来なかった。


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