夫婦間不純ルール
「この話はこれで終わりにしよう? 今日ここに、奥野君が来てくれただけで嬉しかったの」
「俺が、雫先輩の力になりたいと思うのは迷惑ですか?」
奥野君はそう言ってくれるけれど、そこまで甘えるわけにはいかない。彼にはもう一番に考えるべき相手がちゃんといるのだから。
それに奥野君の奥さんにまで、私のようなこんな不安な気持ちは感じて欲しくない。
「迷惑じゃない、でもそこまでしてもらう理由もないの。こうして傍に居てくれるだけで、十分救われてるのよ」
「理由は……俺にはあるよ。分かってるでしょ、雫先輩」
こちらに向かってゆっくりと伸ばされる手。そして含みのある言い方、その意味に気付けない程鈍感にはなれない。だけど分かったという事は出来ないと、奥野君だってちゃんと気付いてるはず。だから……ごめんという意味で首を振ろうとした瞬間。
ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ……
テーブルに置きっぱなしにしていたスマホが震えて、ティスプレイに着信の表示が浮かんだ。それに気付いた奥野君が、私に向かってわずかに伸ばしかけていた手を引っ込める。
私のスマホの画面に表示されたその名前に、奥野君も心当たりがあったからかもしれない。
「岳紘さん、どうして……」