夫婦間不純ルール
Rule 8
「どこに行ってたんだ? スマホに連絡をしたのに着信やメッセージに反応もしないで」
「ごめんなさい、急に麻理に呼び出されて。ちょっとバタバタしてて着信にも気付かなかったの」
結局、あの喫茶店を出た後に私はタクシーを呼んでこの家に帰ってきた。麻理にはすでに連絡していて今日の事は口裏を合わせてもらうよう頼んでいる。
疾しい事はしていないが、なぜ出て行ったと聞かれても答えられないからこうするしかなかったのだ。今の私には岳紘さんに「他の誰を愛してるのか」と問い詰める勇気はなくて。
「それなら一言、言ってくれれば……」
「電話の邪魔をしたくなかったの、私も急いでいたし」
その言葉を聞いて岳紘さんが一瞬だけ動揺した表情を見せたのを、私は見逃さなかった。つまり、聞かれては困ることを話していた。そういう事なのだろう。
……他に愛する人がいるのを、私に知られたら困るという事なのね。そう考えるだけで胸は針で刺されるように痛いし、心はギスギスと音を立てているようだ。
「そうかもしれないが、俺はただ雫の事が心配で……」
「本当にごめんなさい、今日は疲れてしまったからもう休むわね」
まだ何かを言いたそうにしている岳紘さんをリビングに残して、私はそのまま寝室へと逃げ込んだ。とてもじゃないけれど、冷静に彼と話せるような精神状態には戻せなかったから。
頭の中がゴチャゴチャで、もうどうすればいいのか分からなくて……そのままベッドにうつ伏せになり瞼を閉じると、すぐに意識を失った。