夫婦間不純ルール
浮気をしている男性は妻に優しくなるなんて、そんな話を信じるつもりはなかったけれど。こうもタイミングが合っていれば、もうそうだとしか思えなくて。
昨日の電話を聞いてなければ、単純に喜んでいたかもしれない。岳紘さんが私に気を使って朝食を作ってくれたと、麻理にもすぐに話したに違いない。だけど……
とても食べる気になれない、夫が用意してくれた朝食。それでも捨てることはしたくなくて、何も考えないようにして口に運ぶしかなかった。片付けをする時、隣同士に並べられた夫婦のマグカップを見て何とも言えない気持ちになる。夫はどんな思いでこれを並べて置いたのか、と。
「他に、好きな女性がいるくせに……」
一緒に暮らしてきた間、私の存在は彼にとってどんなものだったのだろう? 長いようで短い一年、私を女として見れないと言った彼が、別の女性を愛してしまうには十分な時間だったのかもしれない。
これから、私はどうなるのだろう?
互いの両親に勧められたこの結婚は、二人だけの繋がりではなく親の経営する会社まで巻き込んでいる。今さら離婚したいなどと言っても、それは難しいはず。そして岳紘さん自身も、ルールを決める際に「離婚するつもりはない」とはっきり言っていたのだから。
「もう、考えたくない。何も……考えられない」
一人の部屋に零れる弱音は、誰にも拾われることはない。こうなるのならば、昨日奥野君に頼ってしまえばよかったのだろうか? もし同じ場面を繰り返したとしても、自分にはそんなことは出来ないと頭では分かっていたけれど。